WEDGE(仮)    ようこそ。彩加と凛子の出会いは高1の夏。 注意:暗いお話です。→バックします。

 番外編. 虫篭と蝶々と青い空


彼女と初めて会ったのは、夏休み前の学校の屋上。

「今日いい天気だね。」

彼女の声が聞こえた時。

彩加はちょうど柵を越えて飛び降りようとしているところだった。

「そうね。」

思わず彩加は返事をしてしまった。

柵の上から空を見た。

怖いくらい濃い青空だった。

「降りといでよ。」

おかっぱの少女が彩加に向かって手を振った。

彼女のことは知っている。彩加とはクラスが違うけれど、同じ1年生だ。

剣道をしてる姿がかっこいい、と周りの女の子が騒いでいた。

深い黒い瞳がひどく印象的だ。

いつから彼女はここにいたんだろう。

全然気づかなかった。

柵の外と内を見比べて、逡巡する。

おかっぱの少女は彩加と同じ所まで柵によじ登ってきた。

少女の瞳に空の青が映って、とても綺麗だった。

「降りよう。」

少女の笑顔は底抜けに明るかった。思わず手を伸ばす。

――光

   電灯に吸い寄せられる羽虫達は

   理由もわからずなぜやみくもに光に縋るのだろうか

 

おかっぱの少女が手をのばした彩加を片腕で抱いた。

そのまま柵の上から屋上に向かって飛び降りる。

瞬間、あたたかな風が少女と彩加を包んだ。

 

目に飛び込んできた濃い青色の空と反射する光の渦。

耳に飛び込んできた風の音色と木々のざわめき。

 

世界が紡ぐ祝福の歌を聞いた。

泣きたいくらい世界はうつくしい

 

ふわりと衝撃を感じることなく、屋上のコンクリートに着地する。

 

「どうして。」

彩加はおかっぱの少女の肩にすがり付いて泣いた。

声をあげて泣いたのなんて何年ぶりだかわからなかった。

少女のぬくもりは温かかった。

少女は何も言わなかった。

ただ、そのままずっと抱いていてくれた。

 

貼り付けられた標本の蝶のようにベッドに横たわる。

自分に言い聞かせる。

感情をなくせ。

思考をとめろ。

「お前を愛しているからだよ。」

「いい子だからおとなしくしなさい。」

愛してほしかった。

いい子だといってほしかった。

 

仄暗い焦燥感。蝕まれる感情。

世界は彩加に無慈悲だ。

 

閉塞した虫篭の呪縛。

 

――あなたの存在は世界の色を変えた。

 

   世界はうつくしい

 

   私は世界を愛することができる。

   私は世界に愛されることができる。

 

――あなたにめぐり合うために私は生きてきたというのなら、

   私は神を信じてもいい。

 

夕暮れの風が

涙の乾いた跡をなでていく。

「私は尾上凛子、あなたの名前は。」

少女の瞳はとても深い黒。

なんて強い光を放つ瞳なのだろう。

彩加は凛子の腕の中からその瞳を見つめた。

「本宮彩加。」


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